みんなの「将軍」乃木希典は青山で家族と共に静かに眠る(軍人・1912年9月13日没・青山霊園)

 乃木希典(のぎ まれすけ:嘉永2年11月11日(1849年12月25日)生、 大正元年(1912年)9月13日没)は、元長州藩士、明治維新後は陸軍で台湾総督などを歴任、日露戦争では第三郡司令官として旅順攻略という戦果をあげた。

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乃木希典
出典:Wikipedia

明治天皇を追って殉死した名将

 乃木将軍といえば、やはり明治天皇崩御後、その後を追って殉死したことで有名である。
殉じたのは希典本人のみならず、静子夫人と共に、しかも、その方法は日本武士の古来のしきたりに則った壮絶な切腹であったという。

 乃木将軍は、明治維新後若くして陸軍少佐となり、以降明治天皇に重用された。その誠実な働きぶりと、最期まで天皇を慕った姿は、まさに日本人が大切にしてきた「忠誠」の象徴として、後世まで語り継がれることとなった。

 その殉死については、当時、賛否両論があったようだ。殉死は江戸時代初期の1665年に禁止されており、それからすでに250年近くが経過、明治時代の人々にとってもそれは過去のものとなっていたのである。作家・志賀直哉は「(前略)馬鹿な奴だという気が、ちょうど下女かなにかが無考えになにかしたとき感ずる心持ちと同じ様な感じ方で感じた」と当時の日記に書き残している。
 もっとも、かつて西南戦争に出陣し植木坂の戦いで天皇から賜った軍旗を奪われたものの。天皇のとりなしで何事もなく済んだ(軍旗を敵に奪われることは、将たる者にとって最大の屈辱であったという)ということがあって以来、明治天皇への忠誠を一層強くした乃木将軍は、日露戦争で大きな軍功を挙げつつも、旅順の攻略では多数の戦死者を出し、また自らの息子二人も失うなど、心に大きな傷を負っていたところ、天皇の死というものに直面するにあたり、殉死する以外に心の行き場がなかったのかも知れない。

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殉死当日の乃木夫妻
出典:Wikipedia

 そんな乃木将軍の思惑如何はいざ知らず、民衆やメディアの大多数は乃木の切腹に感動し、明治天皇への至忠を貫いた崇高な行為として、これを称賛した。
 日本のみならず、海外のメディアでも、「日本において、その偉大さを負っている精神が依然として生き続けていることの驚くべき証左である。(中略)西欧世界は、その意味を残りなく汲み尽せぬまでも、静かに頭を垂れて敬意を表さねばならない。故乃木伯爵のような人々が明治の時代をつくったのであり、この時代は、乃木伯爵がその身を献じた大帝(明治天皇)の崩御とともに、名実ともに過ぎ去ったのかも知れないのである」と称賛されたという。
 こうして乃木将軍は、第二次大戦敗戦に至るまでの日本において最も重要な庶民の英雄の一人となった。

青山霊園に設けられた乃木将軍の墓

 乃木将軍の死後、その遺徳と偲び、東京赤坂に乃木神社が建立され、また乃木神社近くの坂は「乃木坂」と改称され、今に残っている。また、乃木神社は東京のみならず、京都府、山口県、栃木県、東京都、北海道など、日本の各地に建立されている。

 そして、乃木将軍は、一緒に殉死した静子夫人とともに、青山霊園に眠っている。

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青山霊園正面入口付近「乃木将軍墓道」の石標(左)
しばらく進むとまた別の石標も(右)

 青山霊園正面入口から入ると、左側方面に歩いて数分、霊園の東北の角、都道環状三号線に接する東1番入口からほど近くに、そのお墓はある。

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乃木将軍の墓

 石垣と鉄柵に囲まれた区画に、乃木家のお墓がある。写真右の烏帽子型の墓石が乃木希典の、左の丸みを帯びた墓石が静子夫人のものである。
 木々に囲まれたその墓所は、一般には公開されておらず、外から眺めることしかできないが、筆者が訪れたその日も新しい花が供えられており、日々お参りに来られる方がいらっしゃるようだ。
 陸軍大将という大身でありながら、その墓石は、それほど大きくもなく自然の石を組み合わせたような質素なもので、青山霊園に眠る他の軍人達の立派なお墓とはその豪華さは比べるべくもない。だがしかし、それこそが、庶民の出であり庶民の英雄となった乃木大将らしいと言えるのかもしれない。

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乃木将軍一族の墓

 写真に見える墓所の区画の左側をとおる通りは、「乃木将軍通り」と名付けられており、今でもこの通りを頼りに乃木将軍のお墓参りに来る人が絶えない。
 この墓所には、乃木夫妻のほか、日露戦争で若くして亡くなった夫妻の二人の息子、勝典・保典も眠っている。戦いの世に翻弄されたとも言える乃木親子は今、ようやく家族水入らずの安らかな時間を過ごしているのかもしれない。

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乃木将軍の墓の位置(青囲み部分)
オレンジ色部分は乃木将軍通り
東京都発行「東京都青山霊園案内図」より
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