ジャズな住職はアイデアマン -妙常寺(海老名市)-お寺探訪記

 今回訪れたのは、神奈川県海老名市。
 幼稚園を経営している面白いお坊さんがいると聞いてやってきました。

 海老名市は、都心から約40キロとやや遠いものの、新宿にも横浜にも電車一本で行けるうえ東名高速があり車の便も良く、未だに人口が増え続けている人気の住宅街。
 近年は海老名駅前がきれいに整備され、ららぽーとをはじめとした大規模ショッピングモールが次々に開業、さらに数年後には相鉄線経由で新横浜、渋谷、品川、東京も電車一本で行けるようになる予定と、明るい話題に事欠かない街でもあります。

 そんな海老名の閑静な住宅街の一角にたたずむ『妙常寺』は、小高い丘の上にコンクリートの立派な本堂が建っているのですが、丘のふもとはお寺が運営する幼稚園と保育園があるせいか、さながら学校の校舎か事務所塔のようにも見えます。

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 妙常寺のご住職は、第34代目となる本良敬典(ほんりょうけいすけ)上人。まだ35歳とお若いですが、住職になられてから既に10年以上とご経験も豊富。

 その軽妙な語り口からは、この人は何か面白い引き出しをたくさん持っていそうだ、という匂いがプンプンします。

 
 というのも、妙常寺では本堂でのジャズライブを開催することもあるのですが、本良住職自身がお経と木鉦でジャズバンドに参加するという斬新なこともされていて、私自身衝撃を受けていたのであります。

Nam-jazz(南無ジャズ)フルバージョン

 このバチ捌き、ただ者ではありませんよね。

大きな大仏様が迎える本堂

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 お寺の立派な本堂を見せていただきました。
 本堂は、最近建て替えられた鉄筋コンクリート製の建物。木造にすると建築費がかなり高くなってしまうため、そこにはこだわらなかったそうです。
 メインの広間には、かなり大きな大仏様が鎮座、床は畳ではなく椅子に座れる洋間になっています。ここでは、先ほどのジャズライブをはじめとしたイベントや、併設の幼稚園の卒園式なども行われるそうで、大勢の人がいつでも集まることができる大広間です。

 その他1階には寺務所と集会場があるほか、2階の一角にはお茶室も。
 こちらのお茶室はイベントでお茶席が設けられるそうなのですが、なんとこちらも椅子席。
 「やっぱり椅子じゃないと大変だって皆さんおっしゃるので。たまにしか来ない方に限って、和室がいい、とおっしゃいますね(笑)」とは本良住職の談。古式にとらわれず、「みんなのお寺」を作りたいというポリシーがここにも垣間見えます。

 実はこの本堂、建て替えには大変なご苦労があったそうです。
 本良住職のお祖父さんが先々代住職として妙常寺に入られたのは戦後間もなくのこと。農地解放で大部分の所有地を失っていたお寺は貧しく、先々代は学校や勉強会を開いてお寺を支えて来られました。
 かつての本堂は、木造でかなり古い建物、昔は本堂の床に座るにも一枚紙を敷いて座らなければならないほどだったとか。庫裏も住むには古すぎて、住職家族もお寺の外の家に住んでいたほどなのだそうです。

 その本堂も21世紀に入りさすがに限界を迎えていました。檀家役員さんが中心に建て替えを計画するも、話は一向に進まず、しかも本堂の建て替えは金銭的に端から無理だと決めてしまっていたそう。そこで住職は、ご自分で檀家さんを集めて「再建有志の会」を開き、他のお寺の見学会をやるなど積極的に本堂再建事業を進めたところ、お布施もみるみる集まり、本堂はもちろん庫裏なども併せて再建することができたそうです。
 一言で書いてしまいましたが、その間には、檀家役員さん達との軋轢などもあって、それを乗り越えたご苦労は涙なしには伺うことができないほど。
 
 妙常寺はお寺としては檀家さんの数が少ない方なのですが、このようなつながりの強さはなかなか他にはないかもしれません。

お葬式にはロウソクを

 妙常寺ではお葬式もすることができるのですが、そこにも面白いシステムがありました。

 普通、お葬式では、祭壇の前に個人の柩がおかれ、周りには親族や友人から贈られたの花輪が飾られることが一般的です。
 しかし、故人を想って送ったはずのお花ですが、高いお花代はすべて葬儀屋・花屋さんに行ってしまうもの、しかもお花は葬儀が終われば用済み、そんなところに疑問を持たれた住職は、画期的なシステムを発案します。

 それは「故人にろうそくを手向けよう」というもの。
 花輪は2つまでとし、それ以上の献花を希望される方には1本1万円を「献灯代」としていただきろうそくをお供えするのです。献灯代についてはロウソク代分はお寺に入り、残りはご遺族に渡されます。

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お葬式の一幕。手前にたくさんの献灯が見える

 何か助けてあげたいけどお金をたくさんあげるのもちょっとやりにくい・・・、そんな現代の世の中ですが、こんな形で支えてあげられるのは素敵ですよね。
 家族の死でいろいろ入り用になるご遺族にとっても、ご遺族に何かしてあげたい友人・知人の方にとっても嬉しい方法、それが妙常寺にはありました。

おしゃれな永代供養墓

 最後に、妙常寺の永代供養墓をご紹介しましょう。

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 こちらも、ちょっと変わったストーリーとアイデアが詰まったものでした。

 かつて檀徒であったある高名な学者さんご夫妻が亡くなったとき、子供がなかったご夫妻は後のことをお弟子さんに託したそうです。
 そのお弟子さんの意向とご出資により、ご夫妻だけでなく、誰もが入れる永代供養墓を建てることになりました。
 永代供養墓の名前は、学者さんご夫妻のお名前から「年」と「千」の一文字ずつをいただき、「千年廟」となったんだそうです。ご夫妻のお名前に「千」と「年」があったなんて、とても運命的です。

 お墓への名前の刻み方も一工夫されています。
 普通の永代供養墓は壁面に名前や没年などを刻んでおくものが多いのですが、千年廟には壁面に本棚があり、そこに本の形をした石碑が、本当に本のように並べられているのです。
 その本型の石碑には、背表紙部分に故人のお名前を、表紙には好きな文字を刻むことができます。
 本を棚にしまえば、表からは故人の名前が見えますし、本を取り出して、それを千年廟の正面に置いてお参りすることもできるのです。

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 実におしゃれかつナイスアイデアだと思いませんか!?
 こちらも、学者さんだったから本の形にしてみよう、というご住職のアイデアだったそうです。

 お墓にもこんなわくわくするようなアイテムをどんどん取り入れていくべきなのではないでしょうか。

 さて、駆け足で妙常寺をご紹介しましたが、長くなりましたので、肝腎の幼稚園・保育園の話は後編に譲りたいと思います。
 今回のお話しはお寺の寺務所で伺いました。寺務所は幼稚園・保育園の事務所も兼ねていて、先生たちがひっきりなしに入ってきては「敬亮せんせい!敬亮せんせい!」とご住職にいろいろな報告・相談をされていました。
 その様子からは、職場の雰囲気も良いんだろうなあということが容易に想像できます。
 ご住職でありながら、幼稚園・保育園の副園長として経営者でもある本良住職は、幼稚園・保育園の経営でも手腕を発揮されています。

 次回をお楽しみに!

田辺 直輝(たなべ なおき)
 一墓一会編集長
 お墓アナリスト
 海洋散骨アドバイザー
 私がお墓関係の仕事に関わり始めたのは10年ほど前。
 たった10年の間ですが、お墓を持つ人、お寺さん、民間の墓地運営者など多くの方とお話しするにつけ、世の中のお墓事情は日に日にどんどん変わっていることを実感します。
 誰もが同じような場所に同じような墓を建て、同じように子孫に引き継いでいく、そんな時代はもう終わりました。
 「最近は先祖を敬う気持ちが薄れているのでは?先祖をもっと大切に。」というお寺や墓地の関係者の話も耳にします。
 しかし、何より大切にしなければならないのは、今生きている人の人生です。
年を取った人が安心して余生を送ることができ、遺される人も安心して見送ることができる、お墓を通じて、そんな皆様の人生のお手伝いができればと思っております。