自分の家の墓の面倒を見ることができない、見たくない、もしくは程なくそうなることが見込まれる・・・、など、理由はいろいろあれど、ご先祖様のお墓が無縁墓になってしまう前に今のお墓を処分整理する、という人が増えています。
墓じまいの多くの場合は、お墓を閉じるだけでなく、埋葬されていた先祖の遺骨は取り出し、世話をする人の近くにお墓を買ってそこに改葬する、あるいは寺院などがずっと供養をしてくれる「永代供養墓」に改葬する、など、ご遺骨の改葬が含まれています。
「墓じまい」という言葉にはややネガティブな響きもありますが、墓じまいをしている人というのは、「無責任に先祖を放置しない」「自分の責任で先祖の供養にケリをつける」、ご先祖様を大切にしている人とも言えるのです。
無縁墓の増加と無縁塚
墓じまいもされないまま、世話をしてくれる人がいなくなってしまったお墓はいわゆる「無縁墓」となります。
近年は日本各地、特に人口流出が多い地方で、無縁墓の増加が問題になっています。熊本県人吉市では市営墓地を調査したところ4割以上が無縁墓となっていた、という衝撃的な結果が出ました。
また、過疎化が進む集落では、住民が減って墓ごと、寺ごと消滅してしまうという事態も発生しています。
実は、「墓の無縁化」自体は最近に始まった問題ではありません。明治7年(1874年)に開設された東京都の青山霊園は、昭和初期には早くも無縁墓の増加が問題となっており、昭和12年(1927年)には区画整理も兼ねて約7000もの無縁墓の整理が行われています。
「お墓は子孫が引き継いでいくのが当たり前」だった時代でさえ、引き継がれることなく打ち捨てられたお墓もたくさんあったのです。

よって、墓地には無縁となったお墓を祀る「無縁塔」「無縁塚」といったものがあります。
墓石自体については撤去処分してしまう寺院や霊園もありますが、墓地に余裕があるところでは墓石も一か所に集めた「無縁塚」を設けているところもあります。

山中に突如現れるお墓の墓場
京都市の西のはずれ、大阪府との県境に近い山の中に金蔵寺(こんぞうじ)というお寺があります。
ここから南西に続く山道を2キロほど登った先に、「お墓の墓場」と呼ばれている一帯があります。


正式には「金蔵寺無縁塚」と呼ばれるこの地、実は近畿地方では割とメジャーなハイキングコースとなっていることもあって、山好きの人たちの間ではかなり有名なのだそう。
山のくぼ地いっぱいに墓石が敷き詰められているのが無縁となった墓石たち。その数は定かではありませんが、1万体は下らないでしょうか。
大量とはいえとても規則正しく整頓されて置かれた墓石群の前には祭壇も設けられており、これらの無縁墓が今でもきちんと供養されていることがよく分かります。
この供養の様子は地元のテレビ局にも取り上げられました。
しかし、このような幸せな余生を送れる墓石は多くはありません。
「無縁化」や「墓じまい」で撤去された墓石の多くは処分されてしまうからです。
実は、この不要となった墓石が一部で問題になっています。
墓石の処分問題
廃棄処分された墓石は、細かく砕いて砂利にしたあと、道路工事などに利用されます。墓石ということで、なかなかそのままの石として再利用されることも難しいようです。
墓石として利用される石は、中には堅くて風雨にも強く高価なものも多いですから、何とももったいない話です。
しかも、その「堅い」という性質がむしろネックになっており、砂利にするにも手間がかかるため、処分にはそれなりにお金がかかります。業者にもよりますが、墓石の処分費用は1トンあたり1万円程度と言われています。
そのため、一部の悪質な処分業者が費用負担を嫌って墓石をそのまま不法投棄するという事件まで発生しています。
2008年兵庫県南あわじ市では、山林に1500トンもの墓石を不法投棄した業者が逮捕されました。しかし、投棄された墓石の処分には多額の費用がかかるため、自治体も頭を悩ませているようです。
不要となった墓石の処理問題は、あまり表には出てきませんが深刻な問題となりつつあります。
元はと言えば、その墓石もどこかの自然豊かな山を削り出して持ってきたもの。せめて処分するときくらいは自然環境にも人様にも迷惑をかけずに終えたいもの。
きちんと「墓じまい」することが、社会に生きる人のマナーとして、今求められていることではないでしょうか。