
近年、多くの霊園で「樹木葬」墓地が誕生し、事前に還ることができるという良いイメージからも人気を博し、2012年には都立霊園である小平霊園でも樹木葬型の埋蔵施設が誕生、募集数に対し16倍の希望者が殺到する事態となるなど、墓地の選択肢の一つとして広く認知されるようになってきました。
しかし、「樹木葬」って一体どういうものなのでしょうか?
あなたは「樹木葬」をどうイメージされていますか?
都市部霊園での「樹木葬」とは
そもそもの樹木葬のイメージというと、「遺骨を土に埋め、その上もしくはすぐそばに、墓標としての木を植える」というようなものではないでしょうか。
埋めた遺骨は土に還り自然に還り、そこで育つ墓標の木に亡くなった人の面影を見るのです。
しかし、実はこのような樹木葬を行ってくれる霊園・寺院等は多くなく、近年増えてきた「樹木葬」の多くは、少し違った形態を取っているようです。
というのも、都市部もしくは都市部近郊の霊園で、1個人または1家族のために1本の木(しかも今後数十年にわたって成長し続けるであろう樹木)を植えて育てるスペースを確保することはコスト的に容易なことではありません。
そもそも遺骨は霊園以外の地域に埋葬することができませんので、その辺の山に遺骨を埋めて墓標に木を植える、ということは法律上できません。樹木葬はあくまで「霊園」内で行わなければならないのです。
ではどうするかというと、都市型霊園では、一定のスペースを確保して樹木を植え、その樹木の周りのスペース(芝生が植えられていることが多いようです)に多くの骨壺を埋める、もしくは共同の骨壺を埋蔵し、参拝については共同の献花台や参拝場所から行う、という形態を取っているのです。
(霊園によっては、骨壺を埋めるのではなく、遺骨を土に触れるような形で埋葬するところもあります。)
つまり、樹木葬と言っても、樹木を墓標にした共同墓と言うのが近く、自然に還って行くというイメージとは若干異なっているとも思えます。
確立されない「樹木葬」
一方で、「自然に還る」ということを売りにし、散骨と樹木葬を混同したようなお墓を売る業者もいるようです。
日本では「樹木葬」が一般的だったわけではありませんので、その定義はいまだ曖昧なのです。
その点については、ネットニュース「THE PAGE」でも取り上げられています。
新しい墓の形「樹木葬」なぜ注目集める? イメージ先行に危惧も
では、なぜイメージ先行でどんどん「樹木葬」が広がりを見せているのでしょうか。
最近、樹木葬が大きく注目されてきた大きな要因は、その「手頃な価格」、そして「気楽さ」であることは間違いないでしょう。
手頃な価格と管理がいらない気楽さ
2006年、横浜ドリームランド跡に、横浜市営墓地「メモリアルグリーン」が開設されました。
メモリアルグリーンには、公営霊園で初めての「樹木葬」施設が作られました。
この施設の形態は、
シンボルツリーや低木、芝、花などで覆われたマウンド上の区画に、骨壺を土中に直接埋蔵し、手前にある献花台で、参拝していただきます。 (メモリアルグリーン公式HPより)
と、先ほど述べたいわゆる都市型の樹木葬施設です。
さて、このお墓ですが、利用にかかる費用は、なんと永代使用料・管理料込で初期費用20万円のみ。
通常、霊園内に墓所区画を購入し墓石を建てると、首都圏では安くても100~200万円前後かかると言われています。かつ、購入後も毎年管理料を支払わなければなりません。
しかし、この樹木葬では、管理料は初期に払う分のみで、購入後は一切不要、しかも管理はすべて霊園側で行ってくれるのです。
もちろん、自分の子供や親戚に跡を継いでもらう必要もありません。
この「手頃な価格」と「管理不要の気楽さ」に、「何となくエコで自然に優しいイメージ」が加わり、「樹木葬」は自分のお墓の選択肢の一つとして大きな存在感を持つようになったのです。
現に、横浜メモリアルグリーンの樹木葬施設はすでにいっぱいになってしまい、今では募集を行っていません。
また、2012年より募集を開始した小平霊園(都立)の樹木葬施設についても、毎年10倍以上の申し込みがある人気施設になっています。
「お墓を守る」という意識が薄くなりつつある今、こういった樹木葬施設が人気になるのも世相を強く反映していると言えるのかもしれません。
一方で、このような形態の樹木葬はあまり利益率が高くないため、民営の霊園ではなかなか開設しにくい、という声も聞きます。
それが公営霊園の樹木葬施設の人気を益々高くしているとも言えるのではないでしょうか。