都会の子供達がお寺でお坊さん修行体験

 お寺の檀家さんの減少が叫ばれ始めて久しいが、お寺はお寺で手をこまぬいているわけではない。

 地域に根ざしたお寺を目指してイベントなどを開催するお寺も多いが、今回は東京江戸川区にある證大寺が開催する「夏休みお坊さん修行」を訪問した。

證大寺
法輪山 證大寺

 夏休みお坊さん修行は、簡単に言えばお坊さんが毎朝行っているお勤めを子供たちが一緒に行うというもの。
 そもそも證大寺では普段から朝のお勤めを開放しており、近所の門徒さんが一緒にお勤めされているのは普通の光景なのだが、夏休み中は特に子供向けのイベントとして開放しているのだ。

子供たちの力に驚かされる

 朝8時過ぎ、夏休み真っ只中の子供たちにとってはまだ眠っていたいであろう時間ではあるが、子供たちが次々とやってきて、きちんと一礼をしたあと山門をくぐってゆく。
 山門で一礼するのはお寺との約束。お坊さんが見張っているなんてことはないのだが、一礼しないで入っていく子は一人もいない。

obousan-shugyo03
山門では一礼するのが約束

 中には、幼い妹を連れたお姉ちゃんが山門の前で「礼してから入らないとダメだよ!」と妹の手を引きながら二人で一礼するなんていうほほえましい姿も。

 お寺に入ると、玄関すぐにお寺の事務員さんが待っていて、出席カードを渡す。「忘れました」という子もいるが、出欠係の女性は甘い言葉は掛けない。「なかったら入れないわよ、きちんと探しなさい」そう言われた男の子はその出欠係女性と一緒にかばんをひっくり返して中を探す。無事カードは見つかって男の子は本堂に入ることができた。

obousan-shugyo04
中には小学校前の子も。もうみんな家族のようだ。

 本堂には約30人ほどの子供たちがきちんと整列して正座して会の始まりを待っていた。
 結構たくさんの子が来るんだな、という印象を受けたが、この日はお盆で帰省した子なども多いため普段の半分もいないくらいだとのこと。

 8時半になると、きっかり受付が閉じられる。遅刻すると出席のスタンプはもらえないのだ。この日は、8時20分頃にはほとんどの子が本堂に集まっており、遅刻者はゼロだった。
 修行のお勤めは、真宗宗歌で始まり、その後読経が始まる。
 驚いたことに、子供たちの多くは既にお経を覚えており、お坊さん顔負けの抑揚までつけてすいすいと唱えていく。

読経する子供達

 お経を知らなかった子も、夏休みこのお坊さん修行に通って覚えてしまうのだという。
 お勤め中は正座をすることが決まり。足を崩すことは許されない。今時の子供たちが何十分も正座をするのはつらいだろうが、みな一様に正座を崩さない。もちろん、中には少々落ち着きがない子、周りが気になって仕方ない子、などもいるが、それはそれで子供らしい。
 お経が終わると、歎異抄(親鸞上人の教えをまとめたもの)の一説の朗読、十七条憲法の唱和と続くが、これも多くの子が暗記しており、すらすらと読んでいく。
 子供たちのしっかりした様子にただただ感心するばかりだ。

 お勤めは40分ほどで終了。
 この日は、近所に住む門徒さんが子供たちのために育てた鈴虫が希望者に配られることになっていた。
 お坊さんの「鈴虫ほしい人は手を挙げて!」という声に、次々と元気に手が挙がる。みんなが一気に子供の顔に戻った。
 
obousan-shugyo06

鈴虫に目が輝く子供たち

 帰るときは、お焼香をしていくのもお約束。お焼香をめいめいにして家路に着いた。

 広報の船井さんによれば、夏休みの子供向けイベントは、当初はレクリエーション的なものだったそうだ。しかし、思ったように子供が集まらないうえ年々参加者が減っていく有様。そこで思い切って厳しくしてみよう、と方向転換したところ、参加者が年々増えたそうだ。今では7、80人もの子供が通う大きなイベントとなっている。
 親御さんにとっても、子供が早起きし、お寺という歴史ある場所でしつけや道徳を学ぶ機会があるというのはありがたいことに違いない。
 「子供達には、お経や歎異抄はまだ難しすぎて理解できて部分も多いかもしれません。ただ、彼らが大きくなったときにふと、そう言えば昔お寺さんでそんなこと習ったなあ、と思い出して、何かの気づきになればいいなと思っています。」(船井さん)
 
 規律は厳しくお坊さんは子供たちを甘やかすことはないとはいえ、お坊さんは総じて優しく、若いお坊さんはお兄さんのように慕われている。
 楽しいけど遊びじゃない、でも楽しみ、そんな子供たちの緊張感と笑顔が本堂には満ちていた。

十七夜のお祭り、そして発表会

obousan-shugyo09

 そしてこの日は、十七夜。
 夕方からお寺ではお祭りが始まるのだ。

obousan-shugyo07

 地元の人や門徒さんによって出店が設けられ、焼き鳥やフランクフルトが振舞またる。浴衣姿の子もいて、お寺は華やかな夏の色に彩られる。

obousan-shugyo08

 十七夜の風物詩ともなった勇壮な和太鼓が、お祭りにまた色を添える。

 一通りお楽しみが終わると、最後は本堂に戻って法要と発表会が行われる。
 発表会とは、子供たちが夏休みのお坊さん修行の成果を見せる場。
 両親や門徒さんが見守る中、子供たちがステージに立って、覚えたお経や歎異抄の一節を暗唱するのだ。

obousan-shugyo10
本堂に元気な声が響く

 大観衆を前に緊張感を隠せない子もいるが、みんなスラスラとお経を読み進めていく。子供たちの能力にはまったく驚かされるばかりだ。

お寺と人と地域と子供たちと

 このお坊さん修行、お寺は参加費は取っていない。そして参加者は門徒の家族でなければならないなどの縛りもない。
 誰でも参加することができ、お寺の教えに触れることができるのだ。

 そもそも、お寺という場所はこうして自由に人が集まれる場所だったのではないだろうか。
 地縁も血縁もなくなってしまったと言われる。
 しかし、人が人とのつながりを求めなくなったわけではない。近所づきあい、親戚づきあいがめっきり減った今も、つながる場がインターネットなどに移っているだけとも言える。

 その中で、「お寺」というもの、その歴史と伝統が、人と人との「縁」になれるということを、この一日で感じることができた。
 そして、子供たちはその中に無邪気に飛び込んでいけるということも。

 證大寺では、普段から、ヨガ講習会、手紙イベントなどのイベントを開催しているだけでなく、朝のお勤め(8時半より)も自由に参加が可能。
 何かの縁を探しに訪れてみるのもいいかもしれない。

法輪山 證大寺
 
 

 
 

 

田辺 直輝(たなべ なおき)
 一墓一会編集長
 お墓アナリスト
 海洋散骨アドバイザー
 私がお墓関係の仕事に関わり始めたのは10年ほど前。
 たった10年の間ですが、お墓を持つ人、お寺さん、民間の墓地運営者など多くの方とお話しするにつけ、世の中のお墓事情は日に日にどんどん変わっていることを実感します。
 誰もが同じような場所に同じような墓を建て、同じように子孫に引き継いでいく、そんな時代はもう終わりました。
 「最近は先祖を敬う気持ちが薄れているのでは?先祖をもっと大切に。」というお寺や墓地の関係者の話も耳にします。
 しかし、何より大切にしなければならないのは、今生きている人の人生です。
年を取った人が安心して余生を送ることができ、遺される人も安心して見送ることができる、お墓を通じて、そんな皆様の人生のお手伝いができればと思っております。