近年増えている永代供養墓は、跡継ぎがいなくても買えるというのが一番の売り。ですから、跡継ぎがいない人、つまり子供がいない夫婦や独身者はもちろん、子供はいるがわざわざ自分の墓に一緒に入ってくれなくてもいいという人
でも買うことができます。
なにせ今や、既婚者女性の6割は自分のダンナの実家の墓には入りたくないという時代。ダンナの両親とダンナが亡くなったら自分用には別でお気に入りの永代供養墓を探してそこを購入する、なんて話も少なくありません。昔のような家族のつながりというのは経済的にも精神的にも薄くなっているのは明らかでしょう。
しかし、血縁関係も婚姻関係もない二人が一緒に一つのお墓入る、というのはまだまだハードルが高いようで、お寺のお墓に入ろうとすると戸籍上のつながりが必要になってくるケースがほとんどのようです。
つまり、同性カップルは法律上籍を同じにできない以上、同じお墓を二人で一緒に買って入る、というのができないのです。
LGBTに切り込んだお寺が登場
その問題に敢然と斬り込んだお寺が現れました。
東京都江戸川区に建ち、埼玉や千葉でも霊園を運営している「證大寺(しょうだいじ)」です。
證大寺は、昨年(2016年)10月7日に、「ふたりの、ふたりだけのお墓」と銘打った永代供養墓「安堵(&)」(あんど)の販売を開始しました。
「性別・間柄・国籍・宗派を問わないパートナーと二人だけで入れるお墓」という謳い文句とともに、ギリシャの神殿の柱を思わせる白い円柱形の墓標は、お墓関連業界の人間でなくとも少なからず衝撃を受けるものでした。
ふたりの、ふたりだけのお墓 安堵(&)
法輪山 證大寺(江戸川区)
森林公園 昭和浄苑
船橋 昭和浄苑
しかも、サンプルとしてホームページに掲載されている墓標に刻まれているのは、日本人男性と韓国人女性と思しき二人の名前。
国籍・宗派を問わないのはもちろん、籍を入れなかった、もしくは入れられなかった二人でも良いのか、と想像させるには十分のインパクトのある写真です。
しかし、恥ずかしながら、そのとき筆者はLGBTの方でも、というところまでは想像が至りませんでした。
もっとも、売り出し当初、證大寺で「LGBTのカップルの方もOK」という特段の表明はしていなかったと思います。
寺院がLGBTを普通に受け入れる時代に
證大寺では、今年2月にLGBT20名ほどを集めて座談会を開催、当事者の意見を集めるなど、LGBTのお墓や終活問題に真っ向から取り組んでいるようです。
LGBTの方には、パートナーとの結婚式、お葬式、お墓など、男女の婚姻関係を前提とした様々なイベントにおいて、計り知れない苦労があるようです。
一方で、2015年3月31日には東京都渋谷区が同性のカップルを結婚と同等の関係とみなし「パートナーシップ証明書」を発行することを決定、世界では2015年6月にアメリカで「同性婚は合憲」という連邦最高裁判所の判断が下るなど、日本でも世界でも同性カップルを公的に認めていく流れが確実になっています。
先ほど、跡継ぎがいない同性カップルだとお墓を買えない、という話を述べましたが、そこには差別的視点というよりも、同性カップルという存在の認知度の低さ、同性カップルを檀家とすることへの制度上(内規上)の不備、跡継ぎがいないための与信の難しさ、といった問題もあったと思います。
しかし、そもそも家財の引き継ぎを前提とした家族関係、家制度というものは、もはや消滅寸前であり、それらの問題は同性カップル特有のものではありません。
今後は、寺院でも「檀家」ではなく「檀信徒パートナー」を積極的に、むしろ普通に受け入れる、そんな時代が来るかもしれません。
今までも、LGBTの人たちを受け入れてきたお寺がなかったわけではありません。1990年代にはゲイブームが到来し、HIVの感染者も増えたことなどから、そういった人達に理解を示して受け入れを勧めたお墓・お寺もあったようです。
そのあたりは、永易至文さんのコラム「虹色百話」に詳しく書かれていますので、ご覧ください。
お墓とお寺と「LGBT」と
證大寺による、永代供養墓の「安堵」の開設、LGBTへの対応など、数々の取り組みには、少し前のIT業界における新鋭ベンチャーのような斬新さと力強さを感じずにはいられません。
一墓一会でも注目していきたいと思っています。
記述を訂正いたしますとともに、誤記により関係者様等にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
たった10年の間ですが、お墓を持つ人、お寺さん、民間の墓地運営者など多くの方とお話しするにつけ、世の中のお墓事情は日に日にどんどん変わっていることを実感します。
誰もが同じような場所に同じような墓を建て、同じように子孫に引き継いでいく、そんな時代はもう終わりました。
「最近は先祖を敬う気持ちが薄れているのでは?先祖をもっと大切に。」というお寺や墓地の関係者の話も耳にします。
しかし、何より大切にしなければならないのは、今生きている人の人生です。
年を取った人が安心して余生を送ることができ、遺される人も安心して見送ることができる、お墓を通じて、そんな皆様の人生のお手伝いができればと思っております。