「死後離婚」をしてでも夫の墓に入りたくない妻。「夫の墓」=「夫の実家の墓」なのか?(ワイドナショーより)

 去る1月8日に放送されたフジテレビ系の「ワイドナショー」で、「死後離婚」についての話題が取り上げられました。

 この「死後離婚」については、昨年あたりからネットなどでもよく取り上げられるようになったと思います。
 「死後離婚」とは、「夫婦のどちらか一方が亡くなった場合に婚姻関係を解消し、配偶者の姻族との関係を断つ」ことを意味します。

 しかし、一般的には女性よりも平均寿命が6歳以上短い男性が妻より先に亡くなるケースが圧倒的に多いわけで、「死後離婚の問題」というのは、夫の死後に「死後離婚」を希望する妻が増えている、ということを指すと言っても良いでしょう。
 特に、夫の母(姑)よりも夫が先に死んでしまったとき、その面倒を見たくない、というのが一番の理由なようです。
 しかも、死後離婚をする、つまり姻族関係終了届を出した場合も、妻は遺族年金はもらえるというのが、死後離婚の増加に拍車をかけています。

[YouTube]ワイドナショー(2017/1/08放送分)19:10より
 
 さて、その中で、お墓の問題も取り上げられました。
 死後離婚をする理由として、「夫の実家の墓に入りたくない」ことも大きいといいます。
 
 例えば、NHKあさイチが行った調査では、妻の6割が「夫と同じ墓に入りたくない」という結果になったそうです。

 「ワイドナショー」でも、松本人志に「一緒に墓に入りたい? 嫁と」と尋ねると、司会の東野幸治は「僕は入りたいんですけど、嫁が東野家の墓に入りたくないと思う」と答えるシーンがありました。
 東野さんは現在まだ49歳。妻が夫の墓に入るか入らないのか、というのは、高齢世代だけでなくどの世代にも起こりうる問題なのです。

「夫の墓」なのか「夫の実家の墓」なのか?

 ところで、この問題を語る際に曖昧にされがちなのが、妻が「夫の実家の墓に入りたくない」のか、「夫と一緒に墓に入るのが嫌なのか」という区別です。

 先ほど出したNHKあさイチの調査も「夫と同じ墓に入りたいか?」という問いであるため、この2つは明確に区別されていません。

 同調査での「夫の墓に入りたくない理由」も、多かったのは「知らない先祖代々と一緒はいや」(約40%)、「夫の家族が嫌い」(約30%)となっていますが、「夫が嫌い」という人が14%ほどいました。
 つまり「夫が嫌い」という人はそもそも夫と同じ墓に入りたくないのでしょうが、夫の家族や先祖と一緒は嫌、という妻は、「夫と二人だけの墓に一緒に入る」ことならOKかもしれないのです。

 実際、ワイドナショーでの東野さんも「嫁が東野家の墓に入りたくないと思う」と言っていることから、東野さんと二人でお墓に入ることを拒絶しているわけではない、とも取れます。

 この「夫の墓」なのか、「夫の実家の墓」なのか、という問題は、「夫が実家の墓に入るのが当然なのか」ということと併せ、もっときちんと考えていくべきではないかと思うのです。

増えつつある夫婦墓、一方で進む少子化

 現在、お墓について考えることが多いであろう団塊世代以上の人たちは、きょうだい(兄弟姉妹)の数が多く、その中で実家のお墓を継ぐ人以外はそもそも実家のお墓に入れません。
 従って、自らお墓を用意する必要があり、いわゆる「夫婦墓(めおとばか)」と呼ばれるような二人用のお墓を求めるケースが増えています。

 今や、都市部を中心に「夫婦墓」を用意する寺院や霊園が非常に増えています。多くのケースでは、お墓の面倒を見る人がいなくなっても寺院・霊園が供養してくれる「永代供養」付きなので、子供がいない夫婦でも買えるため、需要が増えています。

 一方、きょうだいの中で実家のお墓を継ぐ人にとっては、「自分と配偶者(多くは自分と妻になるが)が継いだ墓に入るのが当たり前」となるでしょう。今までそれが普通だったのでそれも当然と言えば当然です。

 しかし、ここまで多くの妻たちが「夫の実家の墓には入りたくない」と公言してしまっているこのご時世、夫側も「妻が自分と一緒に自分の実家の墓に入るのが当たり前」と主張し続けることが果たして現実的でしょうか。
 早晩、それが当たり前でなくなる時代になるでしょう。

 実際、「墓じまい」を行って自分の親以前の世代の遺骨は永代供養墓に移して供養をし、自分達夫婦は二人の墓を建ててそこに入る、というケースも出てきています。

 加えて、少子化社会で一人っ子も多い今、大部分の人が親の墓を継がなければならない、という事実がすでに目の前に突きつけられているのです。

 実家の墓か、夫婦の墓か、もっと自由に選べる時代がもうそこまで来ていると思います。

 ちなみに私は、先祖代々のお墓、を否定する立場ではありません。代々守られてきたお墓はその人のルーツであり、その存在自体が素敵なことだと思います。
 青山霊園などにも古いお墓は多くありますが、古いながらも手入れされて新しいお花が生けられているお墓を見ると、素敵なご家族なんだなあと少しほっこりします。

 「お墓を守る」ことは先祖を大切にし自分の家族を大切にすることであるものの、妻が一緒にその墓に入ってくれることは最優先事項ではないし、だからといって夫と妻が別々の墓に入るのもおかしな話では、と思っているのです。

田辺 直輝(たなべ なおき)
 一墓一会編集長
 お墓アナリスト
 海洋散骨アドバイザー
 私がお墓関係の仕事に関わり始めたのは10年ほど前。
 たった10年の間ですが、お墓を持つ人、お寺さん、民間の墓地運営者など多くの方とお話しするにつけ、世の中のお墓事情は日に日にどんどん変わっていることを実感します。
 誰もが同じような場所に同じような墓を建て、同じように子孫に引き継いでいく、そんな時代はもう終わりました。
 「最近は先祖を敬う気持ちが薄れているのでは?先祖をもっと大切に。」というお寺や墓地の関係者の話も耳にします。
 しかし、何より大切にしなければならないのは、今生きている人の人生です。
年を取った人が安心して余生を送ることができ、遺される人も安心して見送ることができる、お墓を通じて、そんな皆様の人生のお手伝いができればと思っております。