今年も、各地の公営霊園の使用者募集がやってきた。7月1日からは、都立霊園の使用者募集が始まる。
昨年の都立霊園は、募集数1200に対し申込数が8034件で倍率は6.3倍、前年とほぼ同じ倍率で、引き続き狭き門となった。
都立霊園に限らず、昨年稲城市と府中市が共同で開設した「公営稲城・府中メモリアルパーク」は倍率5.9倍、横浜市営日野公園墓地では倍率6.0倍と、公営墓地の使用者申込数は軒並み6倍以上の高倍率をたたき出し、その人気ぶりは衰えることを知らない。
高齢化社会が進み、団塊の世代が後期高齢者に突入せんとしている今、墓不足が心配されている。
東京都の調査では、お墓が現在必要もしくは将来必要になるという人が60%を超えており(平成17年調査)、都は今後も需要が増えると予測している。
内閣府の発表では、2035年の死亡者推定数は約165万人、これは2000年と比べると倍近い数なのであるから、お墓需要が増えるであろうことは予測に難くない。
横浜市も、平成38年(2026年)までに約13万4000以上もの墓地区画の整備が必要になると試算しているが、横浜市が現在までに整備した墓地区画が約7万区画であることを考えるとその将来需要のすさまじさがよく分かる。
今現在の墓事情と将来の墓事情

このような事情から、将来的には墓不足が起こるであろうというのが一般的な予測だが、これについてはダイヤモンドオンラインより興味深い記事が出された。
現状では特に墓は足りないわけではない、あるところにはある、という話である。
もっともこの記事では「将来、墓地の供給が追いつかなければ、墓に納められない遺骨があふれることになる・・・」と問題提起しながら、将来墓が本当に不足しそうなのかについては何ら述べられていないので、片手落ちな感はあるものの、記事の内容は事実を突いていると思われる。
四半世紀以上前のバブル時代、土地価格が暴騰、人々は不動産の購入に走り新築物件はどこも高倍率での抽選、さらなる価格高騰を招き、住宅地は一気に郊外へと広まった。都心への通勤に2時間近くかかるような場所にも数多くの新興住宅地ができた。
当時、似たようなことがお墓界隈にも起こっている。土地価格が上がったためお墓の価格も上昇、将来お墓が買えなくなる!?という話題が世間を賑わせ、人々はすぐに必要がなくとも墓を求めた。郊外の山間には多くの大規模霊園が開設され、どこも引く手あまた。「新聞の一面広告を出せば問い合わせが殺到した。その人たちを案内するために観光バスを手配し、都心発着の霊園ツアーを頻繁に開催していた。営業マンもどれだけいても足りない状況だった。」(とある都内霊園関係者)というのだから凄まじい。
そんな狂想曲も、バブル崩壊と共にすっかり収束。
開発した区画が売れ残ってしまった霊園も少なくはなく、今でも販売されている墓地区画は多い。
また、売れ残らなかった霊園でも、郊外の霊園は既存霊園域周辺に土地があり開発余地を残しているところが多く、需要が見込めた段階で少しずつ墓地を拡張し新規区画として販売していることが多いため、在庫はそれなりにあると思われる。
お墓の都心回帰と多様化
一方、お墓によくお参りする世代は高齢者に多い。従って、交通の便が今一つであったり、階段が多くて体に負担がかかるというようなこともある郊外型霊園よりも、住まいの近くにお墓を求める人も増えている。
都心、例えば東京都の山手線内およびその周辺地域となると、一般的な墓地(墓地の永代使用権を取得して墓石を建てるタイプ)を入手することはなかなか難しい。販売される区画が少ないうえに、価格がかなり高いからだ。必然的に、価格が安めに設定されている都立霊園では募集が殺到することになり、墓の品薄感が増すこととなる。
例えば、2015年の青山霊園の一般墓地区画の当選倍率は約14倍、郊外の八王子霊園や八柱霊園なども加えた都立霊園全体の一般墓地区画の当選倍率でも約7倍と高い。
そういった事情から、都心では一般的な墓地とは違ったタイプのお墓が増えている。
一つが、屋内型の納骨堂、自動搬送式の墓地、といった形のお墓である。こういった墓は実にうまく省スペースに作られており、都心にも関わらず100万円程度で購入できるところもある。もっとも、このタイプの墓は、お墓参りをしているというよりも仏壇にお参りをしている、という感覚に近いところはある。

緑屋根がお参りのための観音堂。その周囲などに納骨庫がある。
もう一つは、屋外型の合葬タイプのお墓である。個別に納骨するタイプ、納骨庫も合同となるタイプ、その他樹木を植えて樹木葬となっているタイプなど、形態や埋葬形式も様々であるが、近年非常に増えているお墓だ。

建物内に個別の納骨庫がある合葬墓。2015年は当選倍率20倍以上の人気。
いずれも、もとはと言えば、普通のお墓を建てられない事情がある人向けにできたものだったが、今ではお墓の一つの形として市民権を得ており、一個人ではとても建てられないような立派な合葬墓なども増えている。
戸建住宅の代替として始まった集合住宅・マンションが、今では住居の位置選択肢となり、戸建住宅よりもメリットを感じる人が増えたり、戸建以上にステータスが高い物件が登場したりしている状況と非常に似通っている。
結果として墓の多様化が進み、空きが少なくても人気がある墓と空きがあっても人気がない墓への二極分化が進みつつあるのだ。
空き家問題とダブる無縁化問題

さらに一つ、不動産事情とタブってくるのが、空き家問題、つまり無縁化問題である。
無縁墓は空いているわけではないが、管理する人がおらず宙に浮いている状態であることを考えると似たような状態だと言えよう。
無縁墓は、都会でも地方でも増えている。
熊本県人吉市は、市営墓地をすべて調査したところ15,123基の4割以上が無縁墓だったという衝撃的な結果を公表している。
東京都や横浜市も、無縁墓の数や割合を公表してはいないものの、無縁墓が増加しておりその対策が喫緊の課題であることを認めている。
今後約20年は死者が増え続けるという推測だが、同時に20年後は大人口減少時代が訪れている時期でもある。墓不足だからといって今新たに墓地を作り続ければ、その先に待つのは想像を超える大無縁墓化時代である。
私は正直なところ、今後死者が増えるとはいえ、独身世帯・子なし世帯が増えており、そういった人たちが一般的な承継者を必要とするお墓を購入することは少ないであろう(墓地や寺院によっては買うことすらできない)し、合葬墓もさらに普及する可能性が高く、額面通りに墓地が不足するとは考えていない。
ただ一つ言えるのは、お墓を買う側も提供する側も先のことを考えねば、将来日本は空き家と無縁墓であふれているであろうことではないだろうか。