長野県塩尻市が合葬墓建設へ - 合葬墓がいいのか仕方なく合葬墓なのか

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 14日、中日新聞より、「塩尻市が合葬墓を建設へ」というニュースが話題になっています。
 「合葬墓」とは一般的に、多くの人の遺骨を一緒に収蔵する機能を持ったお墓を指します。埋葬後の供養については、民営の場合は運営する寺院などが定期的に供養することが多く(いわゆる永代供養墓と呼ばれることが多い)、自治体が運営する公営霊園では定期的に献花式を行っているケースが多くなっています。費用は、申込時に使用料が発生するが、その後の管理費は発生しないことがほとんどです。

 近年、特に大都市圏では合葬墓が非常に増えており、2月14日放送の「報道ステーションSUNDAY」の調査によれば、永代供養墓の申込数はここ1年で7倍に増えているとか。首都圏を始め大都市圏では、バブル期での土地価格上昇による墓地価格の高騰、核家族化・少子化による跡継ぎの減少などにより合葬墓の需要は大きく伸びており、東京都や横浜市などではすでに大規模な公営の合葬墓が整備されています。

 一方で、地方では大都市圏に比べて墓地は安く入手しやすいケースが多いものの、合葬墓を希望する人はこちらも増えており、各地で合葬墓の整備が相次いでいます。

新たな一般墓地の整備の難しさ

 そもそも、塩尻市では、平成25年12月に発表した「平成26~28年度塩尻市実施計画」内で合葬墓を含めた霊園整備事業が事業費3か年2410万円で計画されており、平成27年(2015年)3月には「市営東山霊園に平成28年度内に建設、29年4月以降に利用開始とする」方針を市議会で明らかにしています。またその中で、「合葬墓を求める人が増えており現在の霊園では市民ニーズに対応できない」とも述べたそうです。

 塩尻市営東山霊園は、同市では唯一の市営霊園で、現在ある一般墓所は2000以上の区画あるものの空きはわずか60程度。新たな墓地の確保策として合葬墓の設置案が浮上したようです。
 この「新たな墓地の確保策」として合葬墓が選択されたということは、実は地方でも新たな墓地の確保が難しいことを暗示しているでしょう。

 市街地や住宅地となっている土地を墓地に変える、というのは現在はほぼ不可能です。墓地には都道府県の許可が必要なうえ、原則墓地の整備計画を前もって公表しなければならないため、周辺住民の大反対が起こることが往々にしてあるのです。
 それゆえ、近年開設される大規模・中規模の霊園は人里離れた山の中に開設されることがほとんどです。
 昨年、東京都心部に大規模公営霊園が久しぶりに開設されたことで話題になった稲城・府中メモリアルパークも、急峻なためか住宅地化されてこなかった山の上を切り開いて開設されています。
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 塩尻市営東山霊園も、塩尻市街からかなり離れた、国道20号線塩尻峠近くの山間の公園内に整備されているのです。
 このような山間の霊園の開発には多額の費用が必要となりますので、多くの利用者需要が見込める大都市圏では開設可能ですが、地方では民間では非常に難しく、自治体が公園開発と併せて行えるのが精一杯でしょう。

解決策としての合葬墓

 墓地の確保というのは、現在非常に難しい問題なのです。
 その点、合葬墓はそれほど大きい土地は必要としないうえ、施設を建ててしまえば利用者が増えても増設する必要がありません。
 また費用面でも、例えば今回の塩尻市のケースでは建設費が約2200万円かかる予定だそうですが、合葬墓の使用料はおおよそ5~20万円程度であることを考えると、200~300人程度の利用者を集めれば建設費をペイできる計算になります。
 従って、自治体が墓地不足の解消を考えたとき、合葬墓の建設は非常に有効な選択肢であることは間違いないのです。

 塩尻市がある長野県でも、松本市、飯田市、佐久市などが既に合葬墓を整備しています。
 その他、今年1月には、金沢市街からほど近い石川県内灘町で石川県初の公営合葬墓が完成、利用者募集はこれからだが、事前の一般公開でも多くの人が詰めかけたそうです。

利用者の需要も多い合葬墓

 一方で利用者の目線から合葬墓というものを考えてみましょう。
 
 実は前述の塩尻市と内灘町は、いずれも一般の世帯にアンケートを取っているのですが、その結果は次のとおり。

<塩尻市>
 2014年実施。20歳以上の市民1000人対象
 市の霊園を希望する世帯:2200世帯
 うち合葬墓等の共同埋葬墓地希望:700世帯(31%)

<内灘町>
 2013年実施。50歳以上の人がいる約1340世帯対象
 うち合葬墓を希望:約450世帯(29%)

 実施対象や絞り込み方に若干の違いはあるものの、いずれも全体の約3割が「合葬墓を希望する」と回答したのです。これはかなり面白い結果ではないでしょうか。

 「合葬墓」を希望しない人の理由で最も大きなものは、「他人と一緒にお墓に入ること」に対する嫌悪感や不安感です。
 しかし「合葬墓を希望する」という人は、「跡継ぎがいない」「自分が墓の面倒を見ることができない」などの理由がある場合はすでに他の選択肢が残されておらず、その「嫌悪感」や「不安感」があろうともやむを得ないとも言えます。また、跡継ぎがいる人でも、「子供に面倒を掛けたくない」「負担になる墓守は自分の代まで」という思いから先祖代々のお墓を閉じて合葬墓に入る場合もあります。

 今や、これからお墓に入ろうという人にも、残される人にも、そこに「先祖の供養をするのが当たり前」だった旧来の「家」意識はほとんど残っていません。

 利用者にとっても、そして大都市圏のみならず地方都市でも、「合葬墓」が「合理的な選択肢」の一つとなっているのです。

今後合葬墓は増えていくのか

 中日新聞の記事には、

 一九九〇年代から合葬墓を含む永代供養墓の建設が全国的に盛んになったが、一つのピークが過ぎ、ここ十年ほどは新たに設置される数は頭打ちに。その上で、公営の合葬墓については経済的、社会的な弱者を救済するセーフティーネットと言える。

という全日本墓園協会(東京)の横田睦・主任研究員のコメントが掲載されています。
「合葬墓の数はピークが過ぎ、公営の合葬墓は弱者のセーフティネット」というが、果たしてそうなのでしょうか。

 現在、年間死亡者数は127万人(2014年)ですが、近い将来には年間200万人を超えると予測されます。
 その中で、「合葬墓」という合理的選択をする人はますます増え、一方で初期投資が少なく済み市民の要望にも応えられる合葬墓は、一般的な「お墓」の一つとして認知され、各自治体はその整備を行っていくのではないでしょうか。

 また近いうちに、「合葬墓」の現状を報告したいと思っています。